流通系ベンチャーを創業した際、私は社員に取引先との飲食を一切禁じた。社長である私も例外ではない。流通サービス業の本質は顧客への奉仕であり、私利私欲の介入は商売の根幹を揺るがすからだ。盆暮れの贈答品が私宛に届けば、必ず辞退のハガキを送り、品は社員へ配った。
ある時、懇親を請われ、割り勘を条件に渋々応じた経営者がいた。席を共にすると、この社長は鼻持ちならない人物と感じ、私は会計時に1円単位まで厳密に精算した。驚く相手と2軒目の彼の馴染みの高級クラブへ移動したが、そこでも同様に端数まで自らの分を支払った。
ついに彼は溢した。「僕の接待の酒と女でどんな奴も落とせる。弁護士や会計士すらも言いなりになる。あなたのような人は初めてだ」と。私は心の中で呟いた。「たとえ今夜、何千万円の接待を受け極上の女を抱かしてくれても、あなたの言いなりになるなど絶対にあり得ない」と。結果、その社長との取引は止めた。
接待を受けないのは、誰に対しても堂々と筋を通し、自らの経営判断を1ミリも他者に委ねないという覚悟だ。私利私欲を排し、常に顧客の方を向いてビジネスの主導権を握り続ける。この厳格な自己規律こそが、健全な流通業経営の原点であることを、私は身をもって確信している。
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