ブラジルで2020年末に、カカオの果肉から作る蒸留酒が発売され、注目を集めている。現地の農業専門雑誌「Conexão Safra」や現地紙「uol」などが伝えている。
カカオのお酒といえば、焙煎後のカカオ豆を粉砕したものを蒸留酒に漬けたお酒やリキュールなどカカオ豆から作られるものは良く知られているが、果肉部分を蒸留して作られたカカオ100%のお酒は珍しいという。
カカオの蒸留酒(アグアルデンチ・ジ・カカオ)を実現したのは、エスピリットサント州リニャーリス市在住の情報通信分野のエンジニア、アンドレ・スカンピーニさん。
リニャーリス市はブラジル有数の優良カカオの名産地で、国際品評会でメダルを獲得したチョコレートもこの地から生まれている。
アンドレさんの妻の実家も、40年以上カカオを作り続けている農園で、リニャーリス産カカオ生産のの80%以上を担っているという。
実家のカカオに付加価値を与えられるアイディアが何かないか妻に相談されたとき、自身が大好きな蒸留酒をカカオから作れないか、と考えたのが今回の事業のきっかけだったという。
ブラジルには、国民酒であるカシャッサ(サトウキビの搾り汁を発酵・蒸留してつくる蒸留酒)が有名だが、国内でもカカオから作られた蒸留酒はおそらく前例がないため、実現すれば、リニャーリスのカカオがより注目される。
さらに、チョコレート産業のために使われるのはカカオの豆(種)のみで、果肉は廃棄されている。蒸留酒の原料となる糖を含んだ部分はまさにこの廃棄されていた部分なので、ここから蒸留酒を作ることができれば、サステナブルな事業となる。
「カカオの果実は、種しかチョコに使われていません。カカオ生産者は、なんとかして果肉など他の部分が有効に使えないかと考えていたのです。私は、自分の蒸留の知識を利用して、いくつかの実験をしてみました。品質が良く、持続可能な製品を作ろうと考えたのです」(アンドレ・スカンピーニさん)
酒造りの施設には、恵まれていた。
手づくりのカシャッサ(クラフト・カシャッサ)はブラジル国内のあらゆる地方で作られており、アンドレさんが暮らすリニャーリスにも蒸留所があった。しかもリニャーリスは、これまた国内外の品評会でメダルを受賞する銘酒の産地でもある。
また、確かにブラジルには、サトウキビから作る蒸留酒カシャッサ以外にも、キャッサバ芋から作る蒸留酒チキーラや、イタリア移民がぶどうから作る蒸留酒グラッパなどが、規模は小さいが作られてはいる。
とはいえ、前例のないカカオ酒づくりは、構想から実現まで時間を要した。
「カカオの研究家でさえも、この果実からアルコール飲料を作ることについて、知識はなかったのです。彼らの知識は、種を発酵してチョコレートを作る方向だけに向けられていたのです。いろいろな研究や、テストを繰り返すうち、ようやくこれだというレシピにたどりつきました」(アンドレ・スカンピーニさん)
地元の蒸留所との協力を得て、試行錯誤の末、ブラジル初のアグアルデンチ・ヂ・カカオ(カカオ蒸留酒)が完成した。製品はアステカ語で“苦い汁”を意味するというCacahuatlと名付けられた。
現在、Cacahuatlはアメリカ合衆国、ポルトガル、ベルギー、スイス、日本に送られ、輸入を希望する企業を探しているという。
(記事提供/mega brasil、文/カシャッサ麻生、写真/DIVULGAÇÃO)