【ロンドンで再開した米中通商協議──関税と希土類をめぐる綱引き】
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米国と中国は6月9日、ロンドンで閣僚級の通商協議を再開し、ハイテク製品や希土類(レアアース)をめぐる緊張緩和に向けた交渉を続行している。昨年5月のジュネーブ合意以来、両国は関税停止を経ながらも互いに「約束破り」を非難し合い、貿易摩擦は再び激しさを増してきた。今回の会談には、米側からはスコット・ベッセント財務長官とジェイソン・ラトニック商務長官らが出席。習近平国家主席との電話会談を経て「真剣さ」を確認するため、あえて「固い握手」を取り交わすことに重きが置かれたという。
◆希土類資源をめぐる攻防
米中両国が最も神経を尖らせるのが希土類の輸出規制だ。希土類は自動車用モーターや半導体製造に不可欠なレアメタルであり、中国は世界供給の約90%を掌握する。一方、米国はプラスチック原料のエタン輸出規制を通じて独占的な立場を築こうとしており、バトルは資源安全保障の側面も帯びる。ベッセント長官は「中国が多くの希土類を再び供給する見通しを確認した」と語り、ハイテク輸出規制の一部緩和をにおわせたが、エヌビディアの先端AIチップ「H2O」については依然として規制対象外と明言した。
◆半導体・ハイテク製品の行方
トランプ政権は、半導体設計ソフトウェアやジェットエンジン部品、化学物質などの規制撤回も含めた幅広いハイテク製品輸出規制の解除に前向きな姿勢を示す。ただし、AI用途で需要が急伸するエヌビディアやインテルなどの先端チップは例外とし、「世界の技術覇権を考慮すれば緩和すべきではない」と線引きを強調した。中国側の具体的な言及は控えられる一方、王文濤商務相や李成鋼次官らが協議に参加し、事実上の歩み寄りに応じる可能性がうかがえる。
◆関税政策の揺れ
6月4日に鉄鋼・アルミ関税を25%から50%に引き上げた米国は、ロンドン会談を機に「90日猶予」で再開したEUや英国との交渉へ弾みをつけたい狙いだ。先行して英国と米・英通商協定をまとめたトランプ大統領は、他の同盟国にも「ベストオファー」を求め、7月9日の猶予期限までに関税引き下げの合意を取り付ける構えだ。
◆市場への波及
交渉再開の報に東京株式市場は輸出関連株を中心に買いが優勢となり、日経平均は300円超の上昇。半導体関連や精密機器メーカーの株価がとくに堅調だった。円相場は145円台前半へ下落し、輸出企業の収益改善期待が強まった。市場関係者は、通商協議の進展が世界経済と日本企業の収益見通しを左右するとみている。
◆今後の焦点
交渉はロンドン時間10日午前10時(日本時間同日午後6時)から再開される予定だ。最大の焦点は希土類の安定供給と、半導体を含むハイテク製品の輸出規制解除範囲。これに加え、今週末に控える5月消費者物価指数(CPI)発表や米雇用統計が、FRBの金融政策見通しにも影響を与え、市場のボラティリティを左右するだろう。
激変するグローバル供給網と技術覇権争いの最中、通商協議は単なる関税の話にとどまらず、国家戦略の行方を決める重大な舞台となっている。投資家は「ハンドシェイク」の行方を固唾を飲んで見守るとともに、資源リスクと技術リスクを見極めながら、次なる投資戦略を練る必要がある。
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★note:
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