【「形態で見分ける」から「設計図で見分ける」へ 】
ようやく秋の気配を感じるようになった休日に久しぶりに上野の国立科学博物館を訪ねた。館長の篠田謙一先生には、医学生時代に大学で解剖学を御指導いただいた。元来の御専門は自然人類学で、頭蓋骨の形状から縄文人と弥生人などの日本人の起源を探るテーマを研究されており、解剖学の講義の合間に人類学の話も伺う機会を得た。多くが20歳代の学生達はあまり興味を示さなかったが、好奇心、探求心と情熱は伝わってきた。
私が医師になり臨床現場で結核菌のPCR検査の臨床応用に関わり始めた30年程前、偶然、科学番組で先生を見かけた。古代人の骨や歯から抽出したDNAをPCR法で解析し、日本人のルーツに迫るというものだった。館内には古代人の骨と解析法、成果が分かりやすく解説されていた。特別展の「鳥~ゲノム解析が解き明かす新しい鳥の系統」も遺伝子研究の進歩をテーマにすえている。
遺伝子解析の手法の進歩とともに、先生の研究も発展され、最近では次世代シークエンサーの応用で一気に多くの新たな知見が生まれた。同分野の第一人者ドイツのスバンテ・ペーボ教授は2022年にノーベル賞医学・生理学賞を受賞している。
形態学によるアプローチがDNA解析の導入で見える世界が一変するありさまは、臨床現場の感染症や癌などで生じている状況と全く同じだ。
遺伝子研究でホモサピエンスとネアンデルタール人は分化後も交雑を持ち、両者の遺伝子が現代の我々にも受け継がれているという。この辺のお話は御著書「人類の起源」(中公新書)に詳しい。ご興味のあるかたはご一読をお勧めする。
重要な病原体だけに利用される高価な臨床検査だったPCRはCOVID19で一気に社会に認知が広がり、臨床現場での応用が広がった。一度の検査で20種類近くの病原体のDNA検査を同時に調べることも可能となった。
人類学と医学を通底する遺伝子研究の進歩と実社会への応用、人間の認知の変化を堪能する味わい深い秋の1日となった。
https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/index.php
https://toriten.exhn.jp/
#ゲノム解析 #遺伝子 #人類学 #ホモサピエンス #ネアンデルタール
(定期的に寄稿している原稿の要約・改変版です。)