昨年、小欄で日本の「ドラッグ・ロス」について記した。皆保険制度を支えるために国が定める薬価は改定の度に引き下げられ、他国と比べ薬価の安い国となっている。その結果、海外製薬業界は利益が薄い日本への参入を控える現象のことである。
同様の現象が新薬のみならず、長年使用され、安価で効果も安全性の広く認識されている薬にもみられ始めた。エリスロシンやアミカシンという歴史のある抗生剤の供給が滞り患者さんの治療が制限されている。
とくにエリスロシンは、気管支拡張症や慢性気管支炎などで慢性的な気道(気管支や副鼻腔)炎症がある方の免疫を調整し、炎症を抑える作用を持ち、少量を数か月間続けることで咳、痰、副鼻腔炎などの症状を軽減する重要な薬剤である。「薬局で製薬メーカーが販売停止となり、取寄せ困難ですと言われました」と困惑した患者さんから相談されるが、何とも対処の仕様がない。
改めて調べてみると、同薬は1955年に販売開始され、200mgの錠剤は現在1錠8.7円、一方、近年発売の抗菌剤の初期薬価は1錠1万円以上の薬もある。同じく抗菌剤に分類される薬でも、対象とする菌や使い方はそれぞれに異なり、簡単に代替することはできない。抗癌剤の分子標的薬の錠剤では1錠数万円という薬剤も珍しくなく、稀少な難病の注射薬には億を超える注射薬も登場している。
新薬開発には巨費を要することは十分理解できるが、発売から長年を経過した薬でも有効性が現存する薬には、それなりの費用が支払われないと製薬メーカーは製造から手を引いてしまうことになる。
すぐに生命に直結する薬ではないが、徐々に慢性気管支炎が悪化し、患者さんのQOLは低下し病状は進行する。
経済安全保障の観点からの薬の安定供給についての議論も耳にするが、製造国の問題だけではなく、医療経済の視点も考慮した薬価政策・総合的な対応が求められる。
#ドラッグ・ロス #経済安全保障 #薬価 #皆保険制度
(定期的に寄稿している原稿の要約・改変版です。)