金(ゴールド)の国際価格が史上初めて1トロイオンス3000ドルの大台を突破した。1970年代後半、2000年代に続く戦後3回目の高騰の波だ。背景にあるのは基軸通貨ドルの揺らぎだ。国際政治が分断にさらされるなかで、実物資産としての金に行き場を失ったマネーが集中している。
国際指標となる金のニューヨーク先物(中心限月)は13日、一時前日比54.7ドル(1.9%)高い3001.5ドルを付けた。24年初めからわずか1年ほどで1000ドル近く跳ね上がった。00年初め(289.6ドル)と比較すると、10倍以上になった。
金は紀元前6000年頃のメソポタミア文明時代から装飾品や宗教に使用されていたとされる。その後金貨が誕生するが、金の希少価値が高く流通は限定された。1816年の英貨幣法で金を貨幣の価値基準とする「金本位制」がようやく確立され、各国は自国通貨の価値を金で裏付けるようになり、中央銀行が金を保管するようになった。
最初の波はニクソンショック
金価格の第一の波が起きるにはさらに100年を要する。相場の出発点ともいえるのが、1971年に米政府が金とドルの交換を停止したニクソンショックだ。第2次大戦後に米国を中心につくられた為替相場安定のメカニズムである固定相場制が終わると、金価格は市場の需給で決定されるようになった。
「金価格が大きな上昇トレンドにあった時期は3つに分けられる」。森田アソシエイツの森田隆大氏はこう指摘する。まずは70年代後半だ。石油危機によるインフレを背景に実物資産である金の需要が拡大。79年にはソ連のアフガニスタン侵攻が起き、有事の買いも入った。71年まで35ドルで固定されていた金価格は80年までに873ドルに上昇した。
第二の波は2000年代に起きた。IT(情報技術)バブル崩壊や2001年の米同時テロを機に、冷戦後に高まった米国の地位が揺らぎ始める。そこに08年の米リーマン危機が重なった。量的金融緩和政策などでドルの信認が低下。同年には80年以来で最高値を更新し、初めて1000ドルを突破した。金上場投資信託(ETF)が04年に米国で上場したことで流動性が増したことも追い風になった。
背景に地政学リスクの高まり
20年代に入り「マクロ環境の不確実性の高まりによる金高騰の第三の波が押し寄せている」(森田氏)。新型コロナウイルスや紛争、インフレが金の魅力を高めた。22年には年にウクライナを侵略したロシアは経済・金融制裁でドル建て資産を凍結された。ドル建て資産を保有していることのリスクが新興国で意識され、ドル離れが進んだ。
その受け皿になったのが金だ。22年から中銀による金購入が過去最高水準の年1000トン規模に増加した