「老人の国」
先日納品した仕事は一部差し戻しの上、下流工程もうちで担当する事になった。
時間が無い。時間が無い。時間が無い。
作業の合間を縫って出来合の総菜を買おうと久々に外に出る。
すると駐車場の脇で立ち尽くす人影が。日は落ちて辺りはすっかり暗くなっていた。
よせば良いのに、と自分に呆れつつ声をかける。
どうかされましたか?
歳は80?くらいだろうか、杖をついているお婆さんだ。
聞けば事故を目の当たりにし、けが人が居るのだが自分には手が終えないのだという。
辺りを見渡すが、そのような気配は見当たらない。少し先だというので案内され
人通りの少ない寂れた商店街とも住宅街ともつかない古い町並みの裏通りを半ブロックほど歩く。
お婆さんは朽ちた元本屋の前で足を止め、空の白い本棚に向かって話しかけはじめた。
やっぱりか… 今年に入って2度目だ。
お婆さんに、自分の手に負えない事を告げ、警察に来て貰うことにした。
お婆さんはほっとした表情をしていた。わたしもほっとする。
何せ前回の爺さんは、半身動かず歩けないにも関わらず救急を拒否しやがったのだ。
警察はすぐ向かうという。チッ 何にも悪いことしてないのに警察と話すのはやけに緊張する。
キョドってしまう所為で犯罪者みたいな心持ちになってくる。引きこもりワーカー舐めんな。
警察を待つ間、お婆さんと話をする。
見た目よりもお歳を召していて、もうすぐ90だという。
内容は支離滅裂だが口調は妙にしっかりしており、こんな状態でありながら
お婆さんはわたしには見えない誰かを懸命に助けようとしていた。
お兄さんが警察を呼んでくれて助かった、わたしには最近の電話は使えないから、と
どこまでわかっているのかしきりに感謝を述べてくれるのであった。
警察が到着し、存分にキョドりつつ、役にたつかわからないお婆さんの生い立ちを伝える。
(若い頃遠くから来た事、息子さんが自衛官?軍人?任務中で連絡が取れないが
市ヶ谷に居るはずだ、電話番号や現住所などはわからなかった事など)
後は警察にお任せ。
認知症。そんな状態でも誰かを助けようとするお婆さん。
いつも時間が無いわたしの人生。
ふとよぎる、ポスプラの仲間の生きたいという願い。
どれもこれもがわたしの中で消化できずにわだかまる。 だが時間は無い。
外へ出た目的、買い物へと急ぐ。
が、総菜コーナーは空であった。