今日は東証1部上場の日本株、6541グレイステクノロジーについてご紹介するよ!…って言っても、この株つい昨日に2022年2月28日付での上場廃止が決まったばかりなんだけどね。ははは…株価は2020年12月の高値4000円から、今やたったの21円、実に200分の1にまで下落してしまった。
グレイステクノロジーは製品のマニュアル製作を手掛ける会社で、例えば長年職人の勘と経験で運営してきたキャットフード工場での複雑な機械を使ったキャットフードの製造方法について、世代交代で匠の技の職人が引退するときなんかに、若手に引き継ぐ必要があるよね。この時マニュアルを社内作成しようにも、手書きやWordなんかでマニュアルを作成するのはとっても大変!えっ、「俺の背中を見て学べ」…??い、いまどき古い、古すぎる!こんな時にグレイステクノロジーに頼めば、プロの専門家がスピーディに分かりやすい標準化されたマニュアルを作成し、しかもそれを電子保存までしてくれるというわけ。専門用語の統一やマニュアル内容の変更、英語翻訳にも対応しているよ。とっても便利なサービスじゃない?
こんなグレイステクノロジーが上場廃止ってどういうことだろう?実はこの会社、不正に売上を架空計上する粉飾を行っていたようなんだ。2021年3月期に至っては、なんと売り上げの半分以上、55%が嘘の架空売上だったんだって!…まじ?逆にその売上の半分をでっちあげる勇気100%、すごくない?
実はこの会社、今回の粉飾だけではなく、1984年に創業してからたった15年後の1999年にも架空売上による粉飾が見つかっているんだ。この時も経営危機に陥り、命からがら生き永らえている。その後会社は復活し、2016年に上場を果たした。しかしこの上場こそが、グレイステクノロジーの会社の在り方を暗い方向へ変えてしまったようにかりんには思えるんだ。
企業の不正会計を考える時に、『動機・プレッシャー』『機会』『不正の正当化』という3つの要素から成る不正のトライアングルという考え方があるんだけど、今回のグレイステクノロジーの『動機・プレッシャー』にあたるものは、「短期投資家からの四半期業績成長を求められるプレッシャー」にあるんじゃないかと思えた。グレイステクノロジーが公表している今回の件の調査報告書によると、機関投資家とのIR面談の場で、「弊社の売上成長率予想は10~15%です!」と話すと「なーんだ、その程度の成長率かぁ」とそっぽを向かれる恐れがあり、無理をして「弊社の売上成長率予想はぁ、20~30%ですううう!!」と達成不可能な業績目標を機関投資家に伝えてしまっていたみたいなんだ。会社として現実的に達成できる目標を設定するのではなく、機関投資家が求める無理な業績目標を会社の目標にしてしまっていたわけだね。
そしてこの夢物語の目標値は、厳しいノルマの形で部下に伝達され、経営陣が営業担当役員に対して激しく罵倒・叱責してノルマ必達を求めた。まさにパワハラブラック企業!また、架空売上を作るにしても売上分のキャッシュがないとなかなか監査の目をごまかすことは難しい。この点については、実は創業者であり会長であった松村氏を含む役職員が、付与されたストックオプションが株価上昇の恩恵で権利行使時に多額の利益を得られたときに、その株式売却で得た資金を架空売上の原資として会社に注入して売上を水増ししていたんだ。そしてこれによって投資家に対して売上の成長をアピールし、またそれで株価の上昇を演出し、この株価上昇で得られたストックオプションの株式売却資金でまた会社に架空売上原資を注入する…という恐ろしい負のループに陥っていたんだって。ひぃぃぃ!!…ちょっとこれ、怖すぎない?
また、本件に最も大きく関与していた創業者であり当時代表取締役会長であった松村氏は、この不正発覚前の2021年4月13日に急性大動脈解離により死去している。松村氏も当初は「日本のマニュアルを変えてやるぞ!!」と大きな志を持っていたことは確かなようだけど、2016年に上場して機関投資家と対話する中で、業績成長のプレッシャーに晒され、ただただ成長の数字を作ることが目的化してしまって、創業当初の志からかけ離れた経営をしてしまっていたようだ。
かりんもヘッジファンド出身だから、短期業績、四半期の成長率をついつい会社に聞いてしまう、求めてしまう機関投資家の立場はよくわかる。でもこんな事件があると、投資家としての生き方を考えたときに、こんな投資で儲けてどうするんだ?短期投資は会社にも投資家にも破滅の道ではないのか?とふと考えてしまったよ。実際、ヘッジファンド仲間にもこの疑問から業界をリタイアして、別の自分なりに思う「意味のある」仕事を始める人は多いねえ…