【(世界初)筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病状が「ボスニチブ」で進行停止!】[医療情報]
2021年9月30日、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の井上治久教授らのチームは、ALS患者を対象としたボスチニブ第1相試験の結果、「9人中5人で病状の進行停止の効果があった」と発表しました。
皆さまは、「アイスバケツ・チャレンジ」を覚えておられるでしょうか? 2014年頃、ALSの治療研究支援を目的に、バケツに入った氷水を頭からかぶって募金するチャリティー運動がありました。
米俳優のトム・クルーズ氏、映画監督のスティーブン・スピルバーグ氏、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏、さらにはジョージ・W・ブッシュ元大統領もチャレンジに参加し、世界的に運動が広まり、アイスバケツ・チャレンジは2億ドル(約200億円)以上の寄付金を集めました。
ただ、発案者であるALS患者のピート・フレーツさんは、残念ながら、2019年12月9日が死去されています。
今回は、そのALSに光明を差すような研究結果になります。
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【概要】
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の井上治久教授らの研究チーム(徳島大学、京都大学、北里大学、鳥取大学)は、「筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者を対象としたボスチニブ第1相試験」(iDReAM試験:iPSC-based Drug Repurposing for ALS Medicine study)を行い、ボスチニブの安全性と忍容性を評価しました。また探索的に有効性評価の結果を発表しました。
【試験デザイン】
12名の患者に対し、ALS特有の有害事象が出ないか、まずALS患者3人に1日量100mgを投与。安全評価した上で、別のALS患者3人に1日量200mgを投与、同様にまた別のALS患者3人に1日量300mg、別のALS患者3名に1日量400mgを投与する試験を実施。
【結果】
ボスチニブ1日量100mg~300mg投与群の9人は12週間の試験を完了。しかし、1日量400mg投与群の3人が有害事象によりドロップアウト。有害事象としては、下痢、肝機能障害などが見られています。
→ALS患者で認められた有害事象は、慢性骨髄性白血病に対するものと同様であり、ボスチニブの100mg~300mgの用量レベルでの忍容性は良好という結果。
また探索的有効性解析においては、ALSFRS-Rスコア(症状悪化するとALSFRS-Rスコアは低下)を調査。その結果、ボスチニブを12 週間内服した9人中5人でALSFRS-Rスコアの低下が停止していました。
ALSFRS-Rスコアの低下が続いた4人と、スコア低下が停止した5人の血液を比較した結果、ボスチニブ投与前後で「ニューロフィラメントL」に違いがみられました(上図)。ただし、本臨床試験に参加した患者は少ないため、更なる検討が必要とされました。
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【私見】
iDReAM試験って、iPS細胞に夢を託したような名前でネーミングうまいですね!
さて、ALSの病状進行を遅らせる薬剤は現在もありますが、3か月の臨床経過を見ただけで、「進行停止」と言い切るのは、言い過ぎではないかと思うくらい、自信の表れのような印象を受けます。おそらく上図のようにニューロフィラメントLの変化が病状と合致していたという裏付けがあるためと推測されます。ニューロフィラメントLは、神経細胞の軸索突起に豊富に含まれる細胞骨格の成分です。
結論としては、今回の結果は第1相試験で、サンプル数も少ないですから、さらなる臨床試験の結果を待つ必要があると思います。真実はまだ夢の中です。
なお、ボスチニブは慢性骨髄性白血病薬としては「ボシュリフ錠100 mg」(薬価3861.2円/錠)としてファイザー社より販売中です。よってこの試験はファイザー社から治験薬の提供、治験デザイン、治験実施管理などのサポートを受けていますが、現時点では、同社の株価には直接影響はないように思います。
参考資料:京都大学iPS研究所(CiRA)
https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/211001-000000.html
*本稿は投資を推奨するものではありません。投資は自己責任でお願いします。
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